Black Soil and Hexagon Garden

この庭のひとつの要素としてあげられるのは、これが現代的な回遊式庭園であることだ。回遊式であるいわれは、中央に3辺でつながる回遊路があり、それを囲むようにして4つの鋭角スペースと六角錐ガレージ、ガーデンハウスが配置されているため、立つ場所によって見え方を変えていくつくりにある。門構えに架かったガレージの大屋根である六角形の辺に沿って足を進めると、重なり合う、敷地を囲む焼杉塀と建築物の焼杉板壁、そのあいだに配置された樹木や建築のエレメントの周りの空気が空間となり、その都度違った場面となって展開してゆく。それぞれのスペースは、一方向から見られるための顔にとどまってはいない。これは,この空間が庭と建築との両面から進められた設計であることの作用であろう。

周囲の小山と起伏が連なっている、六角錐の屋根。その平面形状である六角形が、庭に潤いを与えるコンクリート洗出しの水景オブジェに派生している。これは波打ち際の一瞬の表情をもち、500m程先にある海の記憶を見せている。これと同じ六角形は、ガーデンハウスの窓と照明Season+の表札のロゴにも使用されている。そして、焼いた杉板を型枠にして杉板化粧を施したコンクリート、型枠にした後の杉板を使った版木画と凹と凸が組合わさったオブジェのリンクなど様々な表情の杉板を使ったデザインは、記憶の再生と素材のリサイクルという機能を併せもった。

庭の骨格となる、六角形のパターンと杉板の繰り返し、それぞれ個別の景色を作り出す鋭角スペースによって、図面を見る限りでは彫塑的で作為も濃厚と思われるような計画であるが、出来上がったときにはそれらの印象は空無と化し、はじめからそこにあったかのような黒土の庭が現れた。
このことはこの庭の多様な素材、風景、形に対するデザインの中に、存在の反復や連なる記憶によって人々に豊かな感覚の層を感受してもらい、愛着を持ってもらえたらという想いによる「感情のリイグジスト(再存)」という試みが取り込まれているからではないだろうか。

黒土と六角錐の庭 2008年  4月